気を抜くと流れてしまいそうな涙を
目に止どめたまま
不器用に心配をする浩介を
本当に血の繋がらない兄のようだと思った。
泣きそうなのを
悟られないように前髪で顔を隠し
アタシは小さなベランダに出て空を見上げた。
『…月が欠けてる』
バイト以外にすることがなくて
出かける場所もないアタシは
毎晩、ここからこうして月を眺めていた。
隆志もこの月を、あの部屋の大きな窓から
よく見上げていたから。
ほんの少しだけ隆志を
近くに感じられる気がしたんだ。
「いや あれは満ちてるんだよ。」
部屋の中から
同じように空を見上げた浩介は
「満月になろうとしてるんだよ。」
と続けた。
『よく分かんない。』
星もない空にぽつりと浮かぶ月は
どこか怯えているようにも見えて。