「…うそ。

そんなの嘘でしょう?!」

離した手を再びグッと掴まれる。

「じゃあどうして!
あんな…。

泣きながら部屋から出て行くなんて…普通じゃないよ。」


小百合の言葉に心が揺れる。


やはり泣いていたのかと。


女の涙なんて大したことない


…はず。



なのに気持ちは焦る。




そんな自分をみて逆に冷静になる。

自分には全くなかった一面に思わず笑ってしまう。



「あれは仕事のことで少し揉めただけのことですよ。」

落ち着いたところで何でもない嘘が簡単に出てくる。


「さぁ、今日は田所がお嬢様をお送りいたします。すでにお迎えに上がっていると思いますよ。

お部屋まではご一緒に参りますから。」



そう言う俺を少しの間じっと眺めた小百合は何も言わず静かに動き始めた。