「で、でも…莉奈ちゃんじゃなくても別に…」


その瞬間、翔が私の頬を両手で挟んで、顔を近づけてきた。私は一気に顔が熱くなってくのが分かったが、翔の両手から逃げられなかった。




「いない」





「え…?」




「いないよ、婚約者なんて」





……婚約者いないのか…。




なんだ…




「なんだぁ……」






「いなくて嬉しい?」



翔はニヤッとイジワルな微笑みを浮かべて、見つめてきた。うっかり言ってしまった自分の言葉に、なおさら恥ずかしくなる。



「そ、そーいうわけじゃなくてッ…!!」




つい癖でいつもみたいに可愛くないことを言ってしまった。口元を押さえたけど、もう意味がない。