「『ゆ〜らゆらり・赤い木の実が揺らめく…♪
罪が恐いか…神が恐いか…♪
さぁ・染めよう…白いバラを…♪
赤く… 赤く…♪
たった一輪・真っ赤なバラを胸に刺そう…♪
深く… 深く…♪
さぁ・祝杯を挙げよう…♪
真っ赤なワインを口に注げ…♪
ほぅら・くるりと天地が回った♪』」
歌いおわったと同時に、メドゥーサは、自室のドアを勢い良く押し開けた。
壁一面に描かれた大洪水の絵画が目に飛び込んできた。
メドゥーサは無表情のまま、吸い込まれるようにその絵画に近づいていった。


エデンの園…3つの人類…終焉の大洪水…ノアの方舟…

鮮明に当時の歴史を記した絵画を、そっと指先で撫でてみた。
「大〜きぃ絵ぇやなぁ〜。」
やんわりとした声がメドゥーサの背中に当たった。
振り替えると、目の前に漆黒の長髪を垂らした御目麗しい女性が立っていた。
左目の泣き黒子が、彼女の色気を際立たせていた。
女はメドゥーサと目が合うと、優しく微笑み彼に近づいてきた。
「なんやぁ…楽しそうやねぇ〜。」
彼女はメドゥーサの隣に立ち、絵画を見つめながら話した。
彼女を追い掛けるように流れてきた風から、ほのかに薔薇香りがした。
「僕と散歩にいくかい?ガイア。」
絵画を見つめながら、メドゥーサは話し掛けた。
ふっと笑みを零すと、ガイアと呼ばれる女性は
「せやから、ここにおるんやないの?」
と言ってメドゥーサの手を優しく握った。


メドゥーサとガイアは前代メドゥーサが自らの遺伝子を分けて生み出した、言わば我が子である。堕落部分の寄せ集めで作られているため交配が必要とされていない。


メドゥーサはその手を離すまいと強く握り締めた。
母、前代の面影を残した姉の手を…。