吸いおわった煙草をポイと海に放り投げると、アダムは垂れていた前髪を手櫛でかきあげ、木に掛けていたワインレッドのコートを身に纏った。
アダムが羽織ると、上半身の細身のラインがハッキリと見て取れる。腰の部分から足元にかけて、裾が大きく広がり風になびく度に舞い上がる。
ポケットから真っ白いネッカチーフを取り出し、自分の首に巻いた。
アダムは、大きく一呼吸すると集落の群れの中に入っていった。
「あっ…!アダム様!!お帰りなさいませ!」
「どちらに行かれていたのですか?アダム様!」
「心配しましたぞ。」

帰った途端にこれだ…

口々に話し掛けてくる人々を煩わしく感じ、つい眉間にシワを寄せてしまう。
不機嫌さを感じられまいと適当に片手を上げて挨拶しながら、足早に集会場に向かった。
集会場に駆け込むと、アダムは大きく息を吐き出しその場にしゃがみ込んだ。
「あ゙〜っ!面倒臭ぇッ!!何っ…であんなに集ってくるかなぁ…。」
右手で顔を覆いながら、もう片手で煙草を取り出した。
口に加えて、火を探していると目の前にいきなり火が現われた!
…つまり、ワラ火(ワラを燃やしてつけた火)を目の前に突き出された、というのである。
「びっ…くりしたぁ〜。」
アダムは目をパチパチさせながら火を見つめた。
「あはは、そんなに驚かなくても…。お疲れさま。」
日差しのような温かい笑顔が覗き込んできた。
その青年は、ストレートの赤毛の長髪を包帯で末端まで括り束ねていた。
顔からして人が善さそうな雰囲気を醸し出している。アダムもその笑顔をみて一安心しのか、自然と顔が緩み眉間のシワが消えた。
煙草を火に近付け、口から大量の煙を吐き出した。
「さんきゅ♪ギル〜。」
青年の名はギルバード。地上軍の軍医をしている。アダムとは幼なじみだ。
『ギル』は、名前が少々長いためアダムが勝手に読んでるあだ名である。