『アダム…!』
イヴが背中からアダムを抱き締める。
『ゴメン…。アタシが、ちゃんと見てなかったから…。』
イヴは泣きそうな声で、小さくつぶやく。
…しかし、背後で密かにほくそ笑んでいた。
アダムは、力なく地に膝をついた。
愕然としてるアダムに、もはや誰の声も届かない。
《嗚呼…なんと嘆かしい…。これが我が創った人類なのか…。
こんなにも憎しみ、嫉妬、醜悪に満ちている…。》
イヴは、眉をひそめて顔をあげる。
『神様…?赤子は授けたよ!さぁ、早く幸せをちょうだい!!』
イヴは声高に叫んだ。
しかし、アダムの耳にはその声も届かない。
《おぉ…確かに子は戴いた。
だが、もはや、子孫にお前達のような罪に塗れた、愚かな人類を残し、子孫に繋げるわけにはいかん…。》
イヴの顔から笑みが消えた。
嫌な汗が頬をつたる。
『なんですって…?約束が違う!!』
天候がさらに悪化する。雷に加え、豪雨が降り、暴風が吹き荒れはじめた。
『お前との約束など、世界の均衡を保つためなら小さい埃にすぎん…。』
神の無残にも冷たい一言が天から下される。
イヴは怒りで体が震え上がった。
『お前なんか…お前なんか神じゃない!!お前こそ、悪魔だ!!』
《愚かな…。》
そして、大きな壁のような津波が楽園を襲いはじめた。
イヴは、アダムの腕を肩に回し、必死に丘を登りはじめた。
津波は容赦なく押し寄せてきた。
《安心しろ…。お前達が消えても、我が新しい人類を創ってやろう!
そう…お前から授かったこの御子をもとに!!
そして、名付けよう…。
この御子の名は…》
神の声が遥か遠くの天から響く。
津波の轟音で、よく聞こえない。
しかし、最後の声は耳に響いた。
《この御子名は“ノア”!!第二の人類の誕生だ!!》

アダムとイヴは、そのまま津波に飲み込まれていった…。 ―――