「ちょっと泳いで来る。この時間

逃すともう、ぬるま湯だからな」


そう言って彼はゴーグルをつけて

遠浅の海を泳いで行ってしまった。


しばらくは光る波間に彼の浅黒い身体が

見え隠れするのをじっと見ていた。


しかし彼のしなやかな筋肉を

目で捉えることができなくなると

私は諦めて海から視線を外した。


取り残された私は独り

半開きの目にサングラスをかけて

文庫本を開いた。