『頼稜』
拓の美しく伸びる声に、はっとして前を見る。
『は、拓様。お車の御用意は出来ております』
大きな、いかにも高級な車の前に立つのは、頼稜さん。
背丈は拓と同じくらいで、かなりの美形。
こちらも、お坊ちゃんかと思ってしまうくらいの整った容姿。
歳も拓とあまり変わらず、21歳前後だと思う。
こんなに若い人が、大富豪の長男の付き人なのね。
頼稜さんを初めて見る前は、もっとご年配の方を想像していたけれど。
テレビでよく見る「お坊ちゃまっっ!!!!」と、その主人を叱りつけるような、
白い髭を生やした、おじいさんのような人の時代は終わったのかしら。
『───くら!!さくら!!!!』
はっ、と我に返る。
いけない、また考え事を。
『ご、ごめんなさい』
拓はむっとした顔をしていた。
機嫌、損ねちゃったかしら。