『頼稜、坂の下に待たせておいてあるんだ。今連絡したら、いつでも来て良いって』
『待ってくれていたの?なんだか悪いわね』
『そうか…?ま、それも頼稜の仕事のうちだし』
ああ。忘れかけていた。
彼は、拓は、大富豪の長男だったのよね…。
そして頼稜さんは、拓を「拓様」と敬愛する、拓の付き人。
『さ、行こう。頼稜が待ってる』
差し伸べられる、大きな手に抗うことなく頼る。
『ええ』
拓に連れられながら、緩い坂を下って行く。
こんな坂あったんだ、と今更気付く。
さっきも、なんだかんだでぼっとしていたからかしら。