前に、拓と歩いた道を、一人で駆け抜ける。



結構な道のりだったのね、と今更気付く。


あの日は、拓に手を引かれて、夢うつつに歩いていたから。




何故、今日、あの場所に向かうのか。


そう問われても、答えに根拠など無い。


ただ、会える気がしたから。


拓が、そこに居る気がしたから。



待っててくれる、気がしたから。



だから向かう。



ただの町娘が、大富豪の長男の元へ。


不安はある、けれど。



拓が好きだから。





『あ、居ない…』




自分でつぶやいた言葉が、自分の胸を締め付ける。


居ない。



確かにあの日、拓に連れてきてもらった場所。


桜の世界。




けれど、そこに拓は居ない。


居ないと、なんだか桃色が薄れて見えてしまう。




居る気がした、なんて、ただの思い過ごしだったのね。



落胆する私を励ますかのように、桜吹雪が舞い上がる。




『綺麗…』



目を閉じても、鮮やかな桃色が浮かび上がる。


その中に居るのは────。