『ね、さくら?』



一歩ずつ、後退りする。




この想いも、淡い感情も、置いて行ってしまいたい。



忘れて、しまいたい。



『さくら?』



なのに、なぜ、こんなにも苦しくなるのだろう。


一歩下がる度に、心臓がぎゅっと締め付けられる。



────────切ない。




そんなに不安そうに、私を見ないで。


手を、差し伸べないで。



『どうした?さくら?』




諦めさせて、よ。




『白純美っ!!!!!』





本当の名前を呼ばれて、はっとする。


忘れかけてた。


私の名、白純美。




『行かないで、くれ』



何を言ってるの?

私とあなたじゃ、身分が全く違うのよ?



…そう。

昔で言う、“貴族と町娘”のように。




そう言ってあげたかったけれど、切なさで声が出ない。