『なあ、さくら』
『ん?』
『俺、桜好きなんだ』
え?
一瞬、胸が高まるけれど、微妙なイントネーションの違いに気づく。
『そ、そうなの?あなた、桜がとっても似合うものね』
そうか?
と恥ずかしそうに笑った。
『ひとことで、桜といっても、桜にはたくさんの種類があるんだ』
その秀才な頭の中に、どれほどの知識が詰め込まれているのだろう。
拓が言う、“たくさん”は、本当にたくさんの数だと悟る。
『へえ…私は少ししか知らないわ。ソメイヨシノとかヤマザクラとか…』
学校に咲いてる桜だって、どれがどれかわからないし。
花が好き、って言うのは確かだけれど。
拓は、うんうん、と言って微笑んだ。
『でも、そんなこと言って、俺はそこまで知識は無いんだ』
『あら?拓はなんでも知ってそうだけれど。まあ、少なくとも私よりは知識豊富なはずよ』
そう言うと、確かにそうかもな、と笑った。
その笑顔が余りにも無邪気で、怒るのも忘れた。