『………拓、これ…………』





たどり着いた場所。



桃色の世界。



辺り一面、桜。




綺麗な桜の世界に、呑み込まれそうになる。



『綺麗だろ?さくらに、見せたかったんだ』



嬉し過ぎて、涙が出る。

もう、止まらない。


この想いを、涙を、桜吹雪の中に隠す。




『よ、よく、来るの?』
ぽつりと口から出る言葉。




『ああ。近くに家があるんだ。近くって言っても、そんなに近くじゃないけど』



ふと、恵の話を思い出す。



西条、藤井、花園。



有名なお金持ち、大富豪。

そんなことを考えて、拓の横顔を見る。


優美。


横顔でさえ、儚い。

このまま桜の中に紛れてしまいそう。



大富豪の息子。



突然そう言われても、別に驚きはしない。