『ええええ~っ!!駄目だよ、白純美!!!!勝手に帰っちゃ、絶対に駄目』
やけに必死に止める。
怪しいな。
もう午後二時半。
時間がない、っていうのに。
『恵?用があるの。早く帰らせて』
『だ、駄目!!困る!!!!』
私が持つカバンを掴んで、離さない。
どういうことか、薄々気づいている。
気づいてるけど、仕方ない。
帰れなきゃ、私も困るから。
『恵、私さ…会いに行くの』
理由は言いたく無かった。
言ったら、ますます帰らせてくれないと思ったから。
けれど、仕方ない。
『だ、誰に?まさか!!!!!!』
『うん、あの人に』
拓に。
西条拓に。
私が淡い感情を抱く、彼に。
『名前、なんて言うの?』
恵は意外と平然としている。
名前、教えて無かったっけ?
いや、知り合いかと思ったんだった。
『拓、西条拓』
口に出すと、込み上げる感情があった。
会いたいよ、会いたい。
そして、一気に身体中の熱が顔に。
それくらい、熱くなった。