『……西条拓。大学三年』
口を塞いでいた手が外れ、思わず呟く。
『にし、じょう…たく?』
『うん』
名前を知れた。
それだけで嬉しい気持ちが溢れる。
『ねえ、誰か待ってるよ?』
彼が呟いた。
振り向くと、4人が私を見ている。
心配、してくれてるのかな。
もう一度、彼の方に向きを変えると、彼はもう歩き出していた。
『に、西条…さんっ』
急いで追いかけると、彼は振り向いて止まってくれた。
『拓、でいいよ』
『た、拓…でいいの?』
嬉しくてたまらない。
名前で呼べる。
拓、と。
『また、会えるよ』
そう言って拓は先へ歩いて行った。
私は追いかけなかった。
「また、会えるよ」
その言葉があるから。
絶対に、会う。
桜が散り終わる前に。
枯れてしまう前に。