『ほら、白純美さんだって、私に見惚れてるぞ?』
あら、いけない。
拓のご機嫌を損ねるところだったわ。
また、ぼっとしてしまった。
確かに、見とれてしまうくらいのお方だもの。
『白純美、父上に騙されるなよ?』
声を押し殺して、耳元で囁かれる。
ちょっと低めの声は、機嫌の悪さを物語っていた。
もう遅かったわね、なんて。
『拓?聞こえたぞ。私は、騙したりしないだろ?一途な男だからな』
“一途”、その言葉は明仁さんには似合わないわね。
雅さんにはぞっこんなんでしょうけれど。
『明仁さん。後でお仕置きしましょうか?』
『すまない、雅。冗談だ……』
にっこりと笑う雅さんは、ただ者じゃないと悟る。
後で色々教わろうかしら、なんてね。
『白純美さん、また話しましょうね』
『拓、すぐに手を出すんじゃないぞ!!白純美さん、襲われそうになったら───』
『明仁さん。あなた、自分の心配をしなさい』
雅さんに連れられ、明仁さんは渋々部屋を後にしていった。