『俺が、ここが良いって言ったんだ。この階の、位置の部屋が良いって』



『なぜ?』




尋ねると、拓は瞳にガラスの扉に映した。






『花が、見えるんだ』





確かに、ガラスの向こうには、たくさんの花がある。




さっき見た桜も、名しか知らない花も、名すら知らない花も、全て、傍に。





扉を開けて、数歩進んだ先にはもう、桜が。





近づいて、手を伸ばせば、触れられる距離。




素晴らしい、眺め。







『どうしても、ここが良かったんだ。どうしても』





繰り返した言葉が、私の頭で鳴り響く。






どうしても、花が見える場所が良いのね。




私は、隣に立ってガラスの向こうを見つめる拓の茶色の髪を、そっと撫でた。




そうしたら、どうしようもない衝動に駆られた。






触れられる、と。




嬉しさが込み上げる。




と同時に心の中までは触れられていない、と気付く。




いつか触れる、と誓う。



貴方の傍で。