この町を出て行こうと決めた。

父は何も言わなかった。
反対した母は
もういない。


信じて歩んできた道は
けっして楽なものではなかったが
それを辛いと
思ったことはなかった。


心から愛する者と
家族であること
それだけで幸せだと思っていた。

いや、幸せだった。


それなのに、なぜだろう。


老いた父に会い
母を見送り
この風景の前に立った途端
どうしようもない寂しさと
漠然とした不安が
こみ上げてくるのを
みのりは感じた。