「おなかすいた」

ぐずり始めた樹に
時計へ視線を落とした。
4時前。

太陽は海岸線へと
少し近づいていた。

「帰ろうか」

樹を抱えて立ち上がる。
門倉は座ったまま
それを目で追った。

「今実家にいるのか?」

「うん、少しの間だけね」

樹の顔に
汗で張り付いた髪を
そっと梳かしながら答える。


樹を見る目は
慈愛に満ちていた。
やわらかい、母親の顔だ。

「じゃあね」