ぼんやり地面を眺めて答えた。

不思議と涙は出てこない。

まだ心の中で
現実味がないのかもしれない。

ふと頭に温かみを感じて
視線を上げる。


門倉の手が髪をなでた。


「大丈夫?」

「…まだ実感がないの
急だったし」

鼓動がまた
早くなった気がした。

髪から伝わる温もりに
胸の奥がざわついた。

「あんなに泣き虫だったのに
泣かないんだな」

「…泣かないよ。
昨日は親戚の人たち相手に
準備や片づけで
バタバタだったし。
落ち着かなくて。
それに、樹もいるし」

「俺はいいじゃん」

門倉は薄く笑って
みのりの髪を
くしゃくしゃっとした。

そんな門倉を
みのりは苦笑いで見つめた。

「違うよ、子供の方」

あぁ、と門倉は
樹の方へ目をやった。


「ややこしいな」