こうして「変人美少女・笹原桂」の名前は全校に知れ渡ることになる。 
 日常生活を送るうえでは品良く穏やかな彼女は周りの人間を惹き付けてやまなかったが、神出鬼没な逆鱗にうっかり触れると、誰もその暴走する美少女を止めることができない。
 それでも桂が多感な高校生のやっかみの対象にならなかったのは、なによりも彼女が美しかったからだ。
 努力で手に入るものではない天性の美。一睨みで上の学年の生徒すら退散させた清らかさは、深い山を支配する神々のようですらあった。
 入学してから1ヶ月の間で彼女が作り上げた逸話は、彼女に群がっていた取り巻きを一掃するには十分なものばかりだった。
 だからといって桂が不必要に集団生活から浮いてしまったのかと言えば、それもまた違う。この1ヶ月で彼女との適度な付き合い方を学んだ俺たちは、相応の距離感で彼女と接することを暗黙の了解とした。そして彼女もまた、その距離感を心地よく感じているようであった。