「自分で行けばいいだろ」
 なにげない返答に友人はうなだれる。
「それがさ、俺……今日デートなんだよ。ずーっと片想いしててめちゃくちゃ頑張ってアタックして、ようやく約束取り付けた子と。今日が駄目になったら次があるかどうか……」
 なるほど、そういうことか。
 友人の姉が勤めている店は風俗店やラブホテルが建ち並ぶ、市内で一番大きい歓楽街にあるらしい。家とは逆方向であり、正直あまり気乗りはしない。
 しかしながら、つい数分前に今日は暇だと口を滑らせてしまった手前、ここで断るのはあまりに薄情な気がした。体格の良い男が腰を屈め手を合わせ、ひたすら懇願の体勢をとっていることへの同情もある。
 そっと視線を移してみる。河本と菅はやはり目をそらしたままだ。助け船は出ないらしい。
 大きく吸い込んだ息をそのまま吐き出して俺は覚悟を決めた。
「仕方ねえなあ。その子とうまくいったらなんか奢れよ、絶対」
「うおおっ、ありがとう小野田! なんでも奢らせてもらいます!」