窓際の方向へ目を向けて、俺は思わず首を傾げた。親しくしている友人のひとりが河本たちに向かってなにやら必死に頭を下げている。
「おはよー」
 不思議に思いながらも近寄って行くと、そいつが勢い良く振り向いた。哀願の色が顔に浮かんでいる。河本と菅は何故かさっと俺から目をそらした。
 不穏な空気である。
「小野田、今日の放課後暇か?」
「え、まあ、別に暇って言やあ暇だけど……」
 しっかりと両肩を捕まれて、いまにも泣き出しそうな目に問われる。あまり深く考えずに答えてすぐに後悔した。目の前の友人からは面倒事の匂いしかしない。
 すがるような視線にたじろいで、思わず後退する。
「じゃあさ、俺の姉ちゃんにケータイ届けてくんないかな」
「は?」
 短い言葉で疑問を示すと、目の前の友人は情けなく眉を下げた。
 詳しく聞いてみると話はこうだった。友人の姉はキャバクラで働いていて、今日も仕事が入っている。その姉の仕事用の携帯電話が自分の携帯電話とよく似ていて、間違えて持ってきてしまった。それを仕事が始まる前までに届けないと激怒した姉になにをされるか分からない、と友人は頭を抱えていた。