「てめえ、ちょっと顔がいいからって調子乗んじゃねえぞ!」
 派手な装飾を施した指先が伸びて、桂のブレザーにかかる。踵が浮き上がり、小柄な体はすぐに軸を失った。
 殴られる。誰もがそう思ったであろう。
 駆け巡る緊張のなか、仲裁に入るべきか迷った。あまり関わりたい雰囲気ではないのは事実だが、他学年の生徒がわざわざ見学に来るほどの美少女が泣き崩れる様など、誰が見たがるものか。
 だが、その綺麗な顔に危害が及ぶことはなかった。
 胸ぐらを掴む女子生徒の手首に、白く細い指がかかる。それは高圧的なビビッドカラーのマニキュアにも怯むことなく、きつくきつく力をこめて巻き付いているのだ。
 一度白い手に落ちた視線がゆっくりと元の位置に戻る。自身が「人形」と表した黒髪の美少女は、細めた目を正面に立つ相手から一瞬足りとも外さなかった。
 そして、雪のような肌に浮かぶ真っ赤な唇は、薄く笑んでいた。
「制服が皺になります」
 背筋も凍るほどの美しさであった。