「あいつ、なにかやらかしたのか」
 至って真剣に投げた質問のはずだった。けれども、まるで見当違いの反応だとばかりに大袈裟な素振りで河本が振り返る。
 まじまじと俺の顔を眺めてからたっぷりと眉間に皺を寄せ、それから大きな溜め息と共に肩を落とした。
「お前さ……、笹原さんがそこら辺に転がってるような女子高生とは人種が違うってこと、たまに忘れてるよな」
「どういう意味だよ」
「笹原さんを呼び出すって言ったら、好きです付き合ってください、に決まってんだろ」
 額を手で押さえつつ呆れ顔で河本が説明する。そこまで言われてようやく、確かに俺がまるで逆方向の発想をしていたことを思い知らされる。
 4月の中頃までは毎日のように男子生徒に囲まれていた桂だが、その変人ぶりが知れ渡ったことに加え、俺と親しくなってからは自然とその手の声はかからなくなっていた。交際はしていないと友人には否定していたが、四六時中一緒にいる俺たちを、俺や桂にまったく関わりのない生徒がどういう風に見ているかは想像に難くない。