昼休みも半分ほど過ぎた頃、俺は教室内に忙しなく視線を巡らせていた。女子グループとの昼食が終わればいつも真っ先に俺のもとにやって来るはずの桂が、いつまで経っても現れないのだ。
 声をかけてきた数人の女子の輪に交ざり、和やかな雰囲気で昼食をとっていた桂を見たのはつい数十分前の話。先程まで確かにいたはずの彼女の影はいまはどこにも感じられない。
 落ち着きのない様子の俺に、目の前で携帯電話をいじっていた河本がニヤリと唇を持ち上げる。
 正面でぶつかった視線を慌てて外した。
「笹原さんならお呼び出し」
「呼び出し?」
 あからさまに目をそらされたことなど気にする素振りも見せず、片手でメールを打ちながら河本は言った。
 脳裏をよぎるのは入学当初に桂が作ったいくつかの伝説。誰かがまた彼女の逆鱗に触れてしまったのかと思うと、背中が寒くなった。
 あのときは遠い存在だった桂だが、いまは俺が彼女の一番近くにいるのだ。