音楽室の前、桂が慣れた様子で鍵を取り出した。いまはもう、なんとか扉を開けられないかと挙動不審に鍵穴を覗き込むことなどない。けれども見慣れたはずのその動作に俺はどこか違和感を覚えた。
 違和感の正体はすぐに判明した。鍵の持ち手に赤いリボンが咲いていたのだ。
 俺は思わず首を傾げた。先週桂と音楽室を訪れた際、そこには教室名の書かれたプレートが下がっていたはずだ。いつの間にこんなに愛らしい容姿になったのだろう。
 俺の視線に気付いたらしい桂が顔をあげる。
 桂の瞳が俺の顔を見やり、目線を追うようにして自分の手元に行き着いた。赤く薄い唇が持ち上がって、ふふ、と息が漏れる。
「もらったのよ。プレゼント」
 それだけ言って彼女は瞼を落とした。