植物の名前を子供の名付けに使う場合、多くはそれらの花言葉が強く関わってくる。花言葉になにかしらの思い入れがあり、そのような人間に育ってほしい、という願いを込めるのだ。
 彼女は、桂花の花言葉から名をもらったのだろうか。
「月の中にある高い理想」
「え?」
「中国の、桂の木の伝説だって」
 それは予想外の返答だった。
 たどり着いた部屋の前、一瞬の沈黙に包まれる。窓から射す西日が、桂の白い頬を赤く染めた。
「でもね、本当はノウゼンカツラの花から取ったみたいよ」
 日に照らされて、彼女の長い睫毛が影を落としている。目を細める彼女を、俺もなにか眩しいものでも見つめているような気分で立ち尽くしていた。