けれども俺の後悔は長くは続かなかった。すぐに柔らかな笑顔を取り戻した彼女が、薄い唇を開く。
「素敵なお祖父さんだったのね」
 祖父に宛てられたはずのその言葉が妙にくすぐったくて、俺は曖昧に頷くことしかできない。
 話したのは失敗なんかじゃなかった。胸に満ちる暖かさが俺の気持ちを撫でて丸くしていく。
 微妙な間合いと桂の優しさで溢れる視線が照れくさく、俺は慌てて目をそらした。この間をどうにか繋がなくてはと、懸命に次の話題を探す。
「桂は……桂の名前は、結構古風だよな」
 ああ、と短く声をあげ、彼女が髪を掻き上げる。
「名字みたいな名前でしょ」
 言いながらまた歩き始める桂を、俺も同じ早さで追いかけた。
 確かにそうかもしれない。声には出さず自身の内で相槌を打つ。漢字一文字でカツラ、という音は、最近では名字でしか聞いたことがない。