馬鹿だなじいちゃん、こんなにしっかり話す年寄りはそんなすぐには死なねえよ、と手のなかのそれを返そうとしたのだけども、祖父は頑なに受け取らなかった。
 結局ありがたく頂戴することに決めて、自宅に戻ってきたその日の夜。容態が急変し、祖父はそのまま逝ってしまった。
 自分の最期を、祖父はなんとなしに悟っていたのだと思う。
「……で、特に夢も希望もないしがない男子高校生の三万円は、いまも自分の部屋の勉強机に眠ってるって話」
 わざと軽い口調で話し終えたのは、先程までよく笑っていた桂が、神妙な面持ちで俺の話を聞いていたからだ。
 やはり話すべきではなかったか、と少しだけ後悔する。このような空気を作るのが嫌で、いままで祖父の最期を誰かに語ったことなどなかった。
 仲良くなって1ヶ月程度しか経っていない桂に、どうして話して聞かせたのか自分でも分からない。ただ、気が付いたら口をついて出ていた。