桂はそれから1週間ほど入れ替わり立ち替わりやってくる男子に囲まれたが、4月も後半になる頃には、彼女に寄り付くのはその美しさに憧れなにかとお節介を焼きたがるミーハー気味な女子数人になっていた。
 容姿の秀逸さを潰してしまうほど醜い性格かと言えば、そんなこともなく。成績は中の上といったところ。顔立ちが恐ろしく整っている以外、周囲の人間を萎縮させるほどの長所があるわけではない。
 しかし桂は、ひどく変わった人種であった。
 ふらりと中庭に出た桂に寄ってきた他クラスの男子が、桂の足元に咲いていたシロツメクサを踏んだ。それを見た彼女はワナワナと体を震わせ、その場にしゃがんだかと思うとその男子生徒の足首をつかみ勢い良く持ち上げたらしいのだ。
 完全に意表を突かれた男子生徒は見事に草の上に引っくり返った。なにが起きたのか理解できずポカンと口を開けたままのそいつを見下ろし、一言。
「自分以外の命を軽んじる馬鹿たれが」
 颯爽と中庭をあとにする桂の背中だけを見つめ、誰もが呆然と立ち尽くしていた。