「おはよう小野田くん! と、河本くんも」
 目があったときに笑ってくれたら儲けもん、……なのだとしたら、これはどのくらいの価値に当たるのだろう。
 先程まで彼女と話していた女子たちが驚いた顔でなにやら話している。その子たちだけではない。クラスにいるほとんどの生徒の視線を、俺たちはいま浴びている。
「おはよー笹原さん! ってゆか俺の名前知ってたんだ!」
 昨日の俺と同じ内容を聞き返す友人の声で我に返る。だってクラスメートでしょ、とまたもや同じ台詞を返して、彼女の視線が俺に戻った。
 俺も慌てて彼女に挨拶を返す。
「お、おはよう」
「ふふふっ、どうしたの? ぼーっとして」
 軽い調子の笑い声をたてる彼女はとても自然で、まるで俺たちが以前からそうしていたかのような錯覚さえ覚える。
 動揺を隠せずにいる俺に、しっかりしろとばかりに河本が机の下で小さく蹴りを入れた。