チキンとでも笑えばいい。俺は内心でひっそりぼやく。
「それにさ」
 ストローの先端を甘噛みしながら再び口を開く。首を捻って自分の背中側にあたるグラウンドを眺めていた河本が、目線だけを俺に戻した。
「別に昨日ちょっと話したからって、いままでとなにが変わるわけでもないと思う」
「どうして」
 こいつ、国語は得意なくせにどうしてこう色々と考えが足りないかな。パックジュースの底を机につけて、俺は河本にご丁寧に説明してやった。
 昨日たまたま笹原桂と会って音楽室の鍵を開けてやったのが俺じゃなくても、彼女はピアノの演奏を聴かせたであろうこと。そしてそれは彼女がピアノを弾きたがっていたからであって、深い意味などないこと。目的を達した彼女が俺に特別親しくすることなど有り得ないこと。