シャープペンを置き、そばにあったパックジュースに持ち変える。ストローを啜ると口のなかにオレンジの香りが広がった。
「期待にそえなくて申し訳ないけどな、俺は笹原さんとなにもしてないぞ。なにもしてないどころか、そもそも一緒に帰ってすらいない」
「うええ、マジか!」
「マジです、大マジです」
同じフレーズを昨日もどこかで使った気がする。
俺の台詞を反芻して、河本が信じられないとでも言いたげな顔をする。そんなおいしい展開になっていながら放課後デートの誘いをしなかったのか、といったところだろう。
実のところ、俺だってそれについて考えなかったわけではない。
しかしピアノを弾き終わり清々しい顔で帰り支度をする笹原桂を見ていたら、良かったら一緒に帰らないか、という言葉は頭の端に追いやられてしまった。
「期待にそえなくて申し訳ないけどな、俺は笹原さんとなにもしてないぞ。なにもしてないどころか、そもそも一緒に帰ってすらいない」
「うええ、マジか!」
「マジです、大マジです」
同じフレーズを昨日もどこかで使った気がする。
俺の台詞を反芻して、河本が信じられないとでも言いたげな顔をする。そんなおいしい展開になっていながら放課後デートの誘いをしなかったのか、といったところだろう。
実のところ、俺だってそれについて考えなかったわけではない。
しかしピアノを弾き終わり清々しい顔で帰り支度をする笹原桂を見ていたら、良かったら一緒に帰らないか、という言葉は頭の端に追いやられてしまった。