しばらく自分の指先を見つめ、その視線が俺を捕らえる。
 弾かれたように立ち上がり、俺はパチパチと手を叩いた。
「すごく良かった」
「本当?」
「うん」
 くしゃりと彼女の表情が崩れる。なんだかたまらない気持ちになった。
 良かった、本当に、とても感動したのだ。そう言いたいのに、うまくそれを言葉に表せなくてひどくもどかしい。音楽でこんなに気持ちが昂ったのは初めてなのに、表現のしかたが分からない。
 己の文章能力の無さをこんなに呪ったのもまた初めてだった。