けれども彼女は少し不思議そうな顔をして、「だってクラスメートじゃない」と笑ってくれた。その笑顔が優しくて、自分のような大した関わりもない人間にそんな顔を向けてくれる彼女に感動した。
 俺は彼女のことを恐れすぎていたのかもしれないし、いちいち過大に考えすぎなのかもしれない。
「そんなところにしゃがんで、なにしてたの」
 先程よりは気軽に声をかけることができた。彼女は俺の問いに顔を赤らめ、困ったように左耳を掻いた。それだけの動作だというのに、笹原桂が行うとあまりに可憐であまりに愛らしくなるのだと俺は知った。
 目の前に立たれて、男子生徒が我先にと彼女と知り合いになろうとした理由を改めて理解した。
 少しの間言い渋るように唇を尖らせ、伏し目がちに彼女は呟いた。
「鍵……なんとか開けられないかなあって、見てたの」
「鍵? 音楽室の?」
「そう」