音楽室を管理する西川先生に事情を説明し、鍵を借りる。楽しげにはしゃぐ女子生徒の声が遠くに聞こえた。
 雨の日はあまり好きではなかった。天気予報など目を通さずとも、雨が降る日の朝は決まってこめかみから左脳にかけて鈍く疼いた。いわゆる片頭痛持ちの俺の鞄には、市販の鎮痛剤が我が物顔で居座っている。
 早く帰ろう、と思った。この時間帯になってまたピリピリと頭が悲鳴をあげ始める。もう一雨来そうな気配だ。カラオケを断って学校に戻ったのは正解だったかもしれない。
 しかし、階段を上り角を曲がったところで俺の足は止まった。
 音楽室のドアの前、誰かが屈み込んでいる。黒髪の揺れる後ろ姿は間違いなくあの変人美少女だった。