かちゃ……か、ちゃん。

ちょっと突っかかったが、閂が外れた。

なにやら、上のよりいくらか重たく、扉が開く。

六畳程度しかない書斎の中はカビと埃のにおいがした。それが、焚き込められたローズマリーの香りで無理やりにごまかされている。

一瞬、だれだって眉をしかめてしまう。

けれど、強烈なはずのにおいは入室二歩目から気にならなくなり、気付けば、古びた紙と本棚の香りに酔ってしまうんだ。

霧吹きをかけるような静寂と、時間の流れを忘れさせる閉塞感……本好きには、たまらない空間だ。

ただし、千里ヶ崎さんの趣味で、調度品は高級なのか奇妙なのかわからない模様が刻まれている。山の字のような燭台に突き立ったロウソクだけが明かりで、壁には読めない文字が円形に並んだタぺストリーがかかっている。

信じてるわけじゃないけれど、魔法使い……か。少し苦笑する。まさにそれっぽい。

てっきり本を読んでいると思っていた千里ヶ崎さんは、ひとりがけソファーに、横向きでくたりとしていた。

いや、ソファーにくたりとしていることには、なんの疑問もない。

疑問なのは、どうして本を読んでないのか。そういえば……今日の昼間も、僕ばかりが読んでいた。