天窓がある例の書庫に、千里ヶ崎さんはいなかった。つまり、書斎だろう。

この館は、地上三階、地下一階建てだ。書斎は地下にあって、その書斎には、千里ヶ崎さんの〝知り合い〟しか入れない。そういう、結界というものらしい。

地下へ続く木の扉。留め具の緩くなった閂を外す。

人差し指一本でかちゃんと外せるのに、千里ヶ崎さんの〝知り合い〟以外が開けようとしてもびくともしないというのだから、驚きだ。

魔法使い……千里ヶ崎さんは自分をそう言う。ひょっとして、まさか本当に、魔法なんだろうか。

扉の向こうは、細い石造りの螺旋階段だ。両腕を広げられないほど狭く、小刻みな段差が続いている。一メートル間隔で灯っているロウソクが、まるで中世の城を思わせた。

いや、思わせたっていうのもおかしい。だって、そもそも千里ヶ崎屋敷そのものが、中世洋風のインテリアなのだから。廊下に紅い絨毯が敷かれ、玄関ホールをシャンデリアが照らしていると言えば、わかってもらえるだろう。

階段を、壁に手をつきながらゆっくり下りていく。

何回、螺旋降下したことだろう。東西南北の感覚が狂った頃に、書斎の扉が見えてくる。

階段を隠していた扉と同じ古い木製で、閂式だ。