「な…なんで?」

五時間前の気合いもどこえやら、か細い声が路地に響く。

そんなエリザの前には、ピシャリと閉じられた不動産のドア。

( この光景…あと何軒見れば良いのよっ!)

隙間なく閉じられたドアを恨めしげに睨む。

住まいを探し始めてから5時間。

 数軒、数十軒の不動産を回った。

なのにどこも口を開けば《保証人は?》《ご両親か誰かのサインがないとね~》と、こればかり。

 一人故郷を飛び出したエリザには、無理な話だった。

 お金はあるけど、それを保証してくれる人がいない。

気付けば、努力も虚しく住まいを見つけられないままで、時間ばかりが過ぎてしまった。

上を見上げると薄暗くなった空が、夜の訪れを物語る。

「あぁ!どうすればいいの!?」

(3日くらいならホテルに泊まればいいかもけど、もしそれ以上見つからなかったら…)

 恐ろしい考えが頭を駆け巡る。

「あーもうっ…!!」

楽観的に考え過ぎてた自分が、本当に憎い。

気付けば焦りから、エリザはトランクを片手に、薄暗い路地を走っていた。

 コツコツと甲高いヒールの音が、ヤケに耳につく。

するとヒールの音と共に、ズルッと何かが滑る音がー…

「へ?…ウソッ!?」

声をあげて間もなく、宙に舞うのはトランクとエリザ。

そしてガシャン、ドシン、と鈍い音と発てて思いっきり地面に尻餅をつく。

「~~~~ッたあ!!」

あまりの痛さから声も出せず、涙を浮かべて足元を見れば、一枚の紙がヒラヒラとエリザを嘲笑うかの様に舞っていた。