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灯世は大忙しで皿を運んだ。
どういうわけか、侍女の仕事を手伝わされる羽目になったのだ。
「灯世さん、早く大皿持ってって頂戴。」
年配の仕切り役に怒鳴られ、灯世は返事をする余裕もなく走り回った。
今夜は芦多と辰之助の祝いの宴らしく、みんな大忙しだ。
しかも、いきなり辰太郎の気紛れでねじ込まれたものだということらしいから、忙しさも倍増だ。
皿をひっくり返さないように慎重に、かつ出来る限り急いで運ぶ。
これはなかなかの重労働だった。
もう、大人達は酒をのみ、騒いでいる。
辰太郎は嬉しそうに息子を傍らに座らせ、盃を交わしている。
しかし、反対側のもう一つの主役席、芦多の席は空だった。
ちらりとそちらを確認し、灯世はまた厨房に引き返す。
まったく、息をつく暇もない。
たらりと垂れた汗を拭う。
賑やかな広間から離れると、一気にしんとなった。
どうやら、屋敷中の貴族という貴族は揃って宴に参加しているらしく、まったく人気がない。
武人達はどうしているのだろう。
いっそ、私も武人のように自分の部屋でいたい。
酒のおかわりを運びながら、灯世はふいに思った。
「灯世!」
座敷に上がった途端、着物の裾を引っ張られた。
「千歳さん!」
ニコニコ顔の千歳がひらひらと手を振って立っていた。