ドタドタと床が振動している。
そして、それは芦多の部屋のほうに向かってきている。
芦多は観念して目を開けた。
予想通り、声もかけずに障子が開けられた。
「起きろよ芦多!」
「うるさいぞ、千歳。」
また芦多は目を閉じた。
「私は疲れた。」
むん、と手を腰に当て、千歳は布団で寝ている芦多見下ろした。
「ぐだぐだ言わずにさっさと起きろ。
主役が来なけりゃ、宴が始まらないだろ。」
「宴?」
聞いていない。
「お前と辰之助様の祝いだよ。
辰太郎様が張り切って馳走を用意させた。
気乗りしなくても食っとけ食っとけ。」
行くぞ、と千歳は布団をひっ剥がした。
「疲れたと言っているだろう!」
「食うもん食ってさっさと帰ってきたらいいだろ。
滅多に食べられないもんが並ぶんだ、この機会を逃すなよ。」
欲が無さすぎると困る、と千歳は大袈裟にかぶりを振り、芦多の手を引いた。
「そういや、今夜は房姫も参加されるらしい。」
早足に廊下を抜けながら、千歳がボソッと言った。
芦多の口から無意識に呻き声が漏れる。
「まったく、下手に気を使わなければいけなくなる。」
ここは突っ込まずに済ませることにした。