長い時間をかけて群集から逃れる。



身動きが取れるようになると、芦多は早足に歩き出した。



一人黙って歩いていると、するすると衣擦れの音が聞こえてきた。



ハッとして顔を上げると、房姫がお供を両脇に引き連れ、歩いてきたところだった。



たちまち顔の筋肉が強張っていく。



芦多はこの腹の読めないこの姫が……苦手だ。 



「芦多。」



ゆったりとした貴族らしい言葉遣いで、房姫は芦多を呼んだ。



「見事だったわ。」


「……ありがとうございます。」


「辰之助様もおよしになればいいのに。」



くすり、と房姫は笑う。



「恥をかくのは目に見えているのに。」



ねぇ?と後ろの侍女に同意を求めると、少女達は着物の袖で口を隠してクスクス笑った。 



芦多は冷ややかにそれを見つめる。



「これから私の室で茶会を開くのだけれど、貴方もいかが?」


「ありがたいですが結構です、疲れました。」


「そう。」



残念そうに、房姫は首を傾げた。



「身体に障ってはいけないものね。」



それでは失礼、と微笑んで房姫達は芦多の横を擦り抜けた。



ふう、と一つため息をついて、芦多は再び歩き出した。



今夜は屋敷中でドンチャン騒ぎだろう。



そういった騒ぎに呑まれないように、芦多は早々に部屋に引っ込んだ。