芦多は今度こそ背を向けて退場した。



後ろから歓声が追い掛けてくる。



冷静な時ならただお義理程度の拍手を送るだけだろうが、今はみんな興奮していて自分の感情に素直だ。



垂れ幕の中に入って、やっと息をつく。



「ようやく解放されたな。」



声をかけられ、どきりとする。



白柄彦が座ってこちらを見ていた。



「優勝おめでとう、芦多。」



いや、連続優勝おめでとう、かな。



白柄彦は顎を掻きながら言い直した。



「そして、私はまた2位だ。」


「次は優勝かもしれないじゃないか。」



だんだん白柄彦の腕が上がってきているのは事実だ。



「そんな謙遜を。
私がお前に勝てるようになる日はくるのかな。」


「もう危ういよ。」



芦多はあまり白柄彦とじっくり話をする機会はないが、何故か彼のことがわかる気がしていた。



「またまた。
もう今年で…18か?」 


「ああ。
確か白柄彦は…。」


「20だ。
辰之助様と同じだよ。」



顔が似ていないから護衛に回されたがな、と少し悔しそうだ。



出来るものなら、私の容姿と交換したい。



芦多はぼんやりと思った。



ドンドンと、太鼓の音がした。



「表彰の義だ。」



パンと白柄彦は膝を打って、立ち上がった。



芦多もあとに続く。



「辰之助様はどうなるんだろうな。」


「さあ。
貴族組の方の1位として表彰されるんじゃないか?」



白柄彦はどうでもいいといった感じで、垂れ幕を押し退けた。