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いきなり太鼓が乱暴に打ち鳴らされた。



何事かと、静まりかえる。



太鼓のそばには、撥を持った辰之助が立っていた。



辰之助は静かになった群衆を見回して、声を張り上げた。




「今から、勝者決定戦を行う。」



再び、会場がざわざわとざわめき始めた。



「芦多、前へ。」



芦多は困ったように、政隆をみた。



政隆も頭を掻いて、考え込んでいる。



「来い。」



苛々と辰之助は声を荒げた。



辰之助の命令に従わないわけにはいかない。



仕方なく芦多は前に進み出た。



審判と目線を交わす。



審判は頷いた。



芦多はふーっと息を吐く。



面倒なことになったな。



空を仰ぎ見ると、青い空に吸い込まれそうな感覚に襲われる。



いっそ、私を連れ出してくれ。



誰も自分を知らない土地で、一からやり直せたら…。



「真の勝者を決めよう。
芦多、異論はないな。」


「あります。」



怒った辰之助を遮って、芦多は先を続けた。



「私と辰之助様とでは、訓練した時間も密度も違います。
辰之助様は国を治めるための知能、私には辰之助様をお護りするための力を備えるため日々精進して参りました。」


「それが何だ。」



力量が違うと言ってしまえればどれだけ楽か。



芦多は表情を変えずに続けた。



「専門分野が違います。」



まあ、今言ったことと大差はないか。



言ってしまってから、芦多はちらりとそんな事を考えた。



目前では辰之助が顔を真っ赤にしている。



ああ、失敗ったか。



また、芦多は空を見上げた。



相変わらず、青い。



ドーンと、太鼓が試合開始を告げた。