「あ、始ります。」



政隆の声で、灯世は闘技場に目を移した。



太鼓の音がこだまする。



まず、最初に貴族組だ。



大きな紙に、対戦者の名前が大きく書かれている。



灯世達から丁度正面に、2人が向かい合う。



「芦多の出番はまだまだですな。」



退屈そうに、政隆が言った。



灯世も笑って頷く。



間合いを取り合っていて、なかなか試合が進まない。



何組もそれが続き、ついに最終組、辰之助の出番となった。



初めての出場だということで、最前列では辰太郎が首を伸ばしてみている。



「怪我をしなければ良いが…。」



隣で政隆が心配そうにそう呟くのが聞こえた。



「世継ぎが武術大会で怪我を負ったともなれば、大会自体がつぶれますからね。」



弱ったように頭を掻き、政隆はまた試合に目を戻した。



下では辰之助が刀を構えている。



と、やあっと声をあげて、相手に突進していった。



相手は腕を前に突き出して、辰之助の刀を払った。



「危なっかしいのぅ。」



政隆はまた言う。



素人の灯世に詳しいことはわからないが、曖昧に頷いた。



下では灯世が目を離している隙に、決着がついていた。



辰太郎が立って拍手を送っているのは勿論、辰之助だ。



満足気に刀を下ろしているのが見える。



「灯世殿、熱い視線が送られていますぞ。」



言われて目を凝らすと、確かに辰之助が灯世を見つめていた。



「そんな。」



灯世の頬が赤く染まる。



「芦多もうかうかしとれんな。」



ふぅむ、と政隆は一人ため息をついた。