「政隆様。」


「隣、よろしいかな?」



灯世はコクコクと何度も頷いた。



「辰之助様も頑固なお方だからなぁ。」


「…秋人様の本名は、芦多とおっしゃるのですね。」


「芦多から聞きましたか?」



灯世は力なく首を振った。



「侍女がそう呼んでいました。」



あちゃ、と政隆は内心頭を抱えた。



芦多め、出遅れたな。



「話そうとしていたんですよ、あいつも。」


「はい、さっき聞きました。
…邪魔が入りましたけど。」



灯世はそう言って、下で待機している辰之助を睨んだ。



「ははは。
まだ辰之助様も子どもですから。」



それは、そうだろう。



まだ20歳だ。



「芦多が話すと言ったんですな?」


「はい。
今度、正直に話すと。」


「そうですか。」




政隆は優しい目で、同じく下で待機している芦多を見やった。



「勇気を出しましたな、あいつも。」


「何か重大な秘密でもあるんですか?」


「それは、芦多本人から聞いてくだされ。」



ようやく、話す勇気が出せたんですから。と政隆は言った。