***
灯世は辰之助について、段を登った。
今日は待ちに待った、武術大会の日だ。
いつもより少し、めかし込んで来た。
「灯世、ここに座れ。
一番いい席だぞ。」
「ありがとうございます。」
辰之助は柔和な笑みを浮かべた。
「今回はわしも出場する。
よく見ておれ。」
それを聞いたとき、どうみても武闘派ではない辰之助を心配したが、どうやら二組に分かれているらしい。
貴族組と、武人組だ。
辰之助は勿論、貴族組で試合をする。
「はい。
優勝を楽しみにしています。」
これは嘘ではない。
秋人様は組が違うもの。
灯世は心の中で言い訳をした。
辰之助は行ってくると灯世に手を振って、段を降りていった。
それを見送ってから、灯世は会場を見渡した。
正隆様はどこにいらっしゃるんだろう。
ふと、屋内に通じている垂れ幕に目をやると、そばに芦多が立っていた。
灯世は声をかけようと立ち上がり、段を降りる。