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「本当にいいんですか?」
「何が?」
相変わらずへらへらと笑う千歳に灯世は心配そうに尋ねた。
「お仕事、放り出して。」
「いいの。
芦多がなんとかしてくれてるよ。
あいつ、怒りつつも助けてくれるから。」
余計押し付けてきてはいけなかったんじゃないのか。
しかし、来てしまったものは仕方ない。
今さら引き返すのも、と灯世は素直に散歩を楽しむことにした。
「しっかし、冬の庭園はなにも見るのもがないな。」
「木々の葉は落ちてしまいましたしね。」
石と砂、そして茶色の幹しか目に入るものはない。
「それでも、歩くことができてうれしいです。」
「それはよかった。
ずっと部屋にこもりっきりだったんでしょ?」
「はい。
まだここでの暮らしに慣れていませんでしたし。
体力もつらかったですし。」
少し余裕でてきた?と訊かれ、灯世は頷いた。
「だいぶ慣れましたね。
以前は右も左もわからない有様でしたから。」
ははっと千歳は笑った。
「確かにこの屋敷は広いからね。」