「なんでもないぞ。」


「そう、ですか。」



灯世は不思議そうに2人と見比べ、芦多に目を移した。



「じゃあ、早速行きますか。」



千歳は雑巾を桶に放り、灯世の手をとった。



「待て、こら。」


「え、あ、あの?」


「いーのいーの。
あの人の言うことは大抵無視していいから。」



灯世を半ば強引に連れ去った千歳の後姿を仕方なく見送り、芦多は長いため息をついた。



一人で仕事を終わらせるのは骨が折れる。



まったく、あいつには迷惑しかかけられたことがない。



もう一度ため息をついて、芦多は雑巾を水につけた。



その冷たさに身が竦む。



・・・・・・骨の折れる、しかも水仕事ときた。



これは大きな貸しだなと芦多は目をつむった。